大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和55年(ツ)70号 判決 1981年4月28日

上告人

株式会社寿楽園

右代表者

小泉光子

右訴訟代理人

吉本英雄

外一名

被上告人

渡辺清

右訴訟代理人

戸田謙

外二名

主文

原判決を破棄する。

本件を東京地方裁判所に差し戻す。

理由

上告代理人吉本英雄、同瀧本良太郎の上告理由一、二について

原審が当事者間に争いのない事実として確定したところによれば、被上告人は、訴外川崎浩に対し、昭和四八年三月五日四、〇〇〇万円を利息年一割五分、弁済期同年五月三日と定めて貸与し、同日、上告人が被上告人に対し右訴外人の借受金債務を担保するため上告人所有の本件山林に抵当権を設定することを約諾したにもかかわらず、該債務の履行をしないので、仮登記仮処分命令に基づき、本件山林につき前記四、〇〇〇万円の貸金債権を被担保債権とし、利息を年一割五分とする抵当権設定仮登記を経由したところ、その後昭和五〇年七月一八日、東京地方裁判所八王子支部において、被上告人と前記訴外人との間で、右借受金債務につき、(1) 同訴外人は被上告人に対し三、三〇〇万円の支払義務あることを認め、これを三回に分割して支払うこと、同訴外人が該割賦金の支払いを一回でも怠つたときは、期限の利益を失い、残金及びこれに対する遅滞の日以降完済に至るまで年一割の割合による損害金を支払う旨の裁判上の和解が成立したが、同訴外人は、右債務の弁済をしなかつた、というのである。

しかして、右の事実関係によれば、本件被担保債務が右裁判上の和解によつて、債務の同一性を保ちつつ、その金額と弁済方法が同和解契約のとおりに変更されたことに基づき、抵当権の内容も、抵当権の附従性により、変更された被担保債権の内容のとおりに変更されたものというべきである。そして、被上告人の本訴請求も、前記抵当権設定仮登記を該実体関係の変動に一致させるため、まず、右の登記事項を「債権額 金三千三百万円、利息 約定なし、特約 期限後は年壱割の割合による遅延損害金を支払う」ことに変更する旨の変更登記手続を求めるとともに、右変更登記がされることを停止条件として、変更された仮登記に基づく本登記手続を求めるものであることは、記録に照らし明らかである。しかるに、第一審判決は、被上告人の変更登記手続請求を棄却する一方、上告人に対し、変更前の本件抵当権設定仮登記に基づく本登記手続を命じ、上告人からの控訴申立てに対し、原審も、上告人には前叙本登記手続をすべき義務があるものとして上告人の控訴を棄却したが、かかる措置は、民訴法一八六条の規定に反し、被上告人の申し立てない事項について判決する違法を冒したものといわなければならず、しかも、その違法が判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、原判決は、破棄を免れず、更に審理を尽させるため本件を原審に差し戻すこととする。

よつて、民訴法四〇七条に従い、主文のとおり判決する。

(渡部吉隆 蕪山厳 安國種彦)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例